弊社は今年、創業150周年を迎えました。創業明治4年。以降大正、昭和、平成、令和と5つの時代を駆け抜けて参りました。そして今、コロナ禍の厳しい時代を迎えております。
明治4年、初代奥井半吾が創業しました。明治に入り士族という身分がなくなり、いちからのスタートであったようです。江戸時代より北前船交易で栄える敦賀港に、当時大量に荷揚げされる昆布に手を染めたのが始まりでした。明治中期より大本山永平寺様の御用達として昆布をお納めするようになり、少し店舗の形、商いも整い安定してきたようです。以来、120年にわたり御本山から昆布の御用をいただいております。
大正期、地場産業として発達を遂げる「手すきおぼろ昆布」の職人も多く抱え、同時に北前船で運ばれる北海道産大豆を使用する打ち菓子「豆落雁」やおぼろ昆布の粉末を求肥餅にまぶす「昆布餅」、松葉の形に結びあげた細工昆布に砂糖をまぶし焼きあげた、雪をかぶった松の葉の風情の「松の雪」といった昆布菓子を敦賀名物として、敦賀駅頭で販売を始めたのがこの時代です。
又、大正後期からは北大路魯山人や京都の老舗料亭とのお取引をいただくようになりました。業務用の高級だし昆布や昆布茶の販売に力を入れ始めました。流通網が少し広がる時代です。
昭和に入り順調に家業を伸ばし、数多くの昆布職人や手代をかかえ、商いも上り調子に拡大していきます。北海道からの安定した昆布や大豆の敦賀への入荷が弊鋪の商いを押し上げました。そして大戦を迎えます。敦賀港は商業港として日本海側最大規模を誇っていました。それが災いし、日本海側で真っ先に敵国の空襲を受け敦賀市のほぼ全域が被災します。弊舗も店舗、昆布蔵、資材倉庫そのすべてが焼失。先代の言葉を借りれば、天国から地獄へ突き落された時代です。又、創業期と同じゼロからのスタートになりました。
戦後の復興も落ち着き、時代は高度経済成長期を迎えます。昆布商には逆風が吹く時代でもありました。忙しい時代、料理にも簡便さが求められ化学調味料、今で云う「うま味調味料」全盛の時代になりました。戦後、食品の世界にもアメリカはじめ海外からの食文化が輸入され、わが国の古い伝統食品は見なおされなくなります。
暖簾を守るだけの厳しい時代になりました。一方この時代に、横浜市にある大本山総持寺様の御用商として、永平寺様と同じく昆布の御用を頂けるようになりました。又、京都の老舗料亭から始まった、京料理の歴史、伝統、文化の検証、見直しの動きが出て来るのもこの時代です。そこで今一度、高級昆布が昔のように使われ始めました。画期的なことです。簡便さだけで楽しんできた料理の世界に、本物の素材や伝統的な調理、手間をかける時代がやってきました。弊社も少しづつですが、昔の勢いを取り戻し始めました。
平成の時代、内閣府のある委員会のお仕事で、パリの日本文化会館で昆布の講演会の依頼がまいりました。その頃は京都で生まれた「日本料理アカデミー」の活動で海外の有名シェフが弊社昆布蔵の見学にお見えになり始めた時代です。デンマークのコペンハーゲンにある、当時世界一にランクされていた有名レストラン「ノマ」のオーナーシェフ、レネ・レゼッピ氏もお越しになりました。世界が昆布に興味を持ち始める時代が来ました。勿論パリでの昆布の講演会は大成功。NHKの国際ニュースで、その模様を大きく取り上げて頂きました。又、その講演会をコーディネートしていただいた方のご尽力で、フランスの世界的な料理学校「コルドン・ブルー」パリ本校での昆布の講義を開催。世界で初めての、海外での昆布の授業でもありました。海外からの留学生の中でも日本からの留学生比率が一番多い学校でしたが、面白かったのは、その日本人生徒が一番喜んで聞いていただけた事でした。パリで昆布の授業ならではのエピソードです。それがきっかけとなり、パリの三ッ星の有名レストランとのお取引も始まりました。
国内でも昆布への注目度も上がり、弊社にも東京出店のお話をいただくようになりました。平成26年東京日本橋「コレド室町」に初の直営店を出店します。その2年後池袋西武にも直営店出店。首都圏での販売に力を入れていく時代でした。
令和の時代に入り、アメリカ、ニューヨーク州にある、世界的な料理学校「カリナリー・インスティチュート・オブ・アメリカ」(C.I.A)での昆布の講義依頼を頂き、ニューヨークでの初めての昆布の授業を開始。又、業務提携を結び、C.I.Aの授業で使う全ての昆布の提供を開始しました。同時にアメリカでの和食ブームを受け、サンフランシスコ・ナパバレーにある、同じC.I.Aコピア分校でのイベントやニューヨークにある日本クラブとの共同イベントにも参加しました。海外への昆布の販売も伸びてきました。
今年、令和3年に創業150周年を迎えました。海外で昆布を販売する時代がやってきました。
振り返ってみますとその時代、時代にいろいろな商い、御贔屓をいただいて参りました。いつも新しいことの連続であったように思います。その時に、迷わずに飛び込んで行き、そこで生まれる新しい商いが、今、弊社の歴史や伝統となって、いきづいております。昆布一筋、お客様に、その時代、時代の御贔屓をいただきながら守り続けてきた、「のれん」を、しっかりと伝え残して来る事が出来ました。皆様方の御贔屓の賜物です。ここに衷心より御礼を申し上げます。
140周年の時には「東日本大震災」の不幸に見舞われました。今年はますます厳しさを増す「新型コロナウイルス感染症」の猛威にさらされています。10年前と同じく、節目の行事の予定は御座いません。社員一同、心を一にしてこの難局を乗り越えていくことに精進を重ねて参ります。
150年を振り返って、この災害を乗り越えられない訳がないと想いを強くしております。皆様方の御自愛を心よりご祈念申し上げ、創業150周年を迎える御挨拶とさせていただきます。これまでの御贔屓に衷心より御礼を申し上げます。本当に有難う御座いました。