昆布と食文化

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 もともと大の日本酒党だった私は、日ごろの飲み過ぎもあったのでしょう、突然の眼底出血に見舞われてついにドクターストップがかかりました。治療に専念し目が完治してからもお酒は控えるといった、実に味気ない生活をしておりました。(笑)
 気晴らしといえば、美味しい料理と旅行です。ワインを好きになったきっかけも、夫婦で行ったフランス旅行でのこと。ボーヌに立ち寄った時のことです。星付きのレストランで食事をしていたら、家内が「フランスまで来て、ミネラルウォーターだけでいいんですか」と言い出しました。周りのテーブルは、楽しそうにワインを飲みながら料理を堪能していました。フランス料理を食べながらワインを飲まないなんて、画竜点睛を欠くようなものです。すぐに白ワインを選んでもらいましたが、その美味しかったこと!長く禁酒していたからからでしょうか、ハーフボトルだったにもかかわらず、感動の余韻も手伝って、ホテルに戻る途中の公園で休むほど酔っぱらってしまいました。(笑)その時、料理とワインの組み合わせはフランスの食文化の神髄だと感激しましたね。
 私は昆布の商いをしていますが、ワインを知るようになって、昆布は"海のワイン"だと改めて思いました。例えばワイン同様に産地やヴィンテージの違い、格付けがあります。ブドウの成育に気温や日当たりなど自然環境が大きく影響を与えるように、昆布も潮入り、河川の流れ、日当たりで品質が左右されるのです。格付けは「別格浜」「上浜」「中浜」「並浜」と分かれ、最高品質の昆布が収穫される「別格浜」は、ほかの浜で育ったものとは品質がまったく異なりますし、ヴィンテージによっても個性が違います。収穫される土地の地名で流通されるという点も、ワインと同じです。知床半島で穫れたものは「羅臼昆布」、宗谷岬なら「利尻昆布」というように、産地名で呼ばれて味わいの特徴も異なり、まさにテロワールの違いがあります。
 昆布は精進料理と結びつき、豊富な栄養源として、また万葉の昔から日本独自の食文化を支える食材として長い歴史をつないできました。うれしいことに、最近では著名なフレンチレストランのシェフたちが昆布の旨味に注目し始めています。コンソメとは違い、昆布から引き出される旨味が"ダシ"という変幻自在の味わいになり、料理を引き立てることに気付いたのでしょう。ダシとしてはもちろん、昆布巻きや昆布ジメのような幅広い使い方ができることも魅力です。昆布を使った料理はミネラル分や旨味も増すために、ワインとマリア―ジュも格段に良くなります。ワイン好きの方には、これからもっと昆布に親しんでいただき、日本の食文化の素晴らしさを楽しんでもらえたら幸いです。これが私、自称「コブリエ(昆布のソムリエ)」としての切なる願いです。
                      (ワイン王国5月号 巻頭「APERITIF」 奥井隆 寄稿)

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