産地である北海道と天下の台所・大阪との中継地として昆布加工の技術が発達してきた敦賀に店を構える「奥井海生堂」の「蔵囲利尻昆布」。雪深い地で陸揚げされた昆布は、この地で越冬しなければならなかったのです。蔵で寝かせているこの時間が、新昆布の磯臭さをやわらげ、雑味の少ない、昆布本来の味わいを高めたのです。
ワインも出来てすぐではなく、カーブで熟成させることで角がとれていくように、昆布にも「熟成」の時が必要だったのです。
なかでも「奥井海生堂」では、最高品質の礼文島香深浜産利尻昆布を平成元年からの「ヴィンテージ」を備え、まさにワインのよう。 先代は「昆布は山が育てる」と言っていたそうです。山から川によって、豊かなミネラルが運ばれ、その海を「畑」として昆布は育つのです。ブルゴーニュのドメーヌのように、礼文島の香深浜産、船泊浜産、利尻島の仙法志浜産、沓形浜産と「海のテロワール」の恵みを受け、野性味に富んだ昆布が収穫されます。新昆布では荒々しかった風味が、時とともに丸くなり、艶と香りが高まっていくのです。
親しい友人と道元禅師で有名な永平寺へ出かけました。そこで修行僧の生活の一端に触れることができました。禅師の書、『典座教訓』に基づいて、生活の基本となる「食」が守られているところでもあります。精進料理は味気ないものと思ってしまうかもしれませんが、料理の土台となる「昆布」が滋味深い味わいで、身体の奥にしみ入るほどです。永平寺の昆布も「奥井海生堂」のもの。試しに「蔵囲昆布」を一片、軟水の上質な水に浸けてみてください。「昆布水」を味わってみれば、「昆布」は、まさに料理の基本、味わいの要であることを実感します。