料理と深くかかわりを持つようになったのは結婚と同時、三人の子供にも恵まれました。子供がおなかにいる時はへその緒で結ばれているものの、生まれてからは母の手で作る食が命の源と、日々の食卓作りに励んだものです。その中で最もこだわってきたことのひとつに味の土台である昆布があります。汁物、煮物、炊きこみご飯のときにもだし昆布を使ってだし汁をとります。この一手間はおいしい料理を作ろうという意欲や気持ちの余裕につながります。品格のある旨味とこはく色のだし汁は、わが家のお惣菜作りに欠かすわけにはいきません。
どのような分野においても人がかかわっていると、その人柄が作るものにうつし込まれると思います。十有余年前、知人にさそわれて「奥井海生堂」の昆布蔵に初めて足を踏み入れた時の感動は表現しがたいものがありました。蔵いっぱいに満ちている柔らかい香気、芸術的ともいえる昆布の黒い束、百聞は一見にしかずとはこのことと納得でした。収穫時に条件のいい昆布を入手し、わらの布団を着せてほこり、風光から保護し、愛情をたっぷりかけて、数年囲い、自然の力で熟成させ、単に磯の香りだけではない良質の昆布に育てあげているのです。以後、作り手と使い手として長いおつきあいが続いています。
時代の波に逆らってもよいものを守り続ける「奥井海生堂」の昆布は、これからもわが家の食卓に健康をもたらしてくれると思います。